小学校三年生の夏、隣のクラスに転校生がやってきました。
お母さまの具合が悪く、空気の良い田舎に転校してきた、というまるで少女漫画のような設定の男の子でした。
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突然あらわれた気になる彼
髪の毛は短く刈られていて、日に焼けていて、笑顔が眩しく背が高い男の子で、一目ぼれで初恋でした。
隣のクラスで、接点もないように思えましたが、幼馴染の友達がその転校生と同じクラスでした。
そのため、用事があってそのクラスを訪れた際に、意地悪で通せんぼをされたのがきっかけで、
いつしかケンカ友だちのような関係になりました。
私が友達のところに用事があって、顔を出すたびに、
「何で来たんだよ~」
「あんたには関係ないでしょう」
の繰り返し。
彼は、男子生徒の友達はいても、女子とは距離を取っている感じがあり、
実際にそうだと幼馴染の友人から聞いていたので、自分は特別な感じがありました。
休み時間ごとに何か用事を作っては、隣のクラスに顔を出し、
その子とケンカのようなじゃれあいをし、自分のクラスに帰るということを1日繰り返していました。
幼馴染の子から、授業中はこんな感じだよ、
国語が苦手で体育が好きみたいという情報を仕入れては、ドキドキしました。
朝、下駄箱で顔を見かけ、意地悪っ子のような顔をくしゃりとさせて手を振ってくる彼を見ては、
毎日胸が締め付けられるようでした。
まだまだ子どもで、この気持ちをどう言葉にしていいのか、
初めての経験で分からないことだらけで、幼馴染の友人にも相談することはありませんでした。
ただ、彼の顔を見るとドキドキして、
じゃれあうように接するときには、この気持ちがバレることがないようにと必死でした。
幼馴染の友人に、
「Kくんがあんなに笑顔を見せるのは〇ちゃんにだけだよ」と言われると顔が真っ赤になり、
会うのが恥ずかしくなったりもしました。
しかしそういうときは、彼の方から私のクラスに顔を出しに来てくれました。
「何だ、いるじゃん」
のひとことで胸が高鳴り呼吸ができなくて苦しくなりました。
「何で今日は来ないんだよ~」
と笑顔を見せる転校生に、クラスメイトたちは、ザワつきます。
なぜ、隣のクラスメイトと私が仲良しなのか。
年頃の女の子たちにはからかわれ、隣のクラスになぜかライバル意識を持っている男子生徒には、
「隣のクラスの奴と何で仲良くしているんだよ」、とたしなめられました。
夏休みが明けて…
そんな日々が2か月ほど続き、学校は夏休みに入りました。
何の約束もしていないので、当然、夏休みの間は会えません。
彼がどこら辺に住んでいるのかも分からないので、
会えるかななんて淡い期待をして、彼の家の近くまで行く、なんてこともできませんでした。
長い夏休みが明け、私はさっそく隣のクラスへ顔を出しましたが、彼の姿はどこにもありませんでした。
幼馴染の友人に聞いても分からないとのこと。
休み時間になってもう一度、顔を出しに行くと、
入院していたお母さまの退院と同時に元いた街へ帰ったとのことでした。
最後のあいさつもできず、最後がいつだったのかも思い出せず、彼はいなくなってしまいました。
私は、自分の気持ちを伝えることはもちろん、彼の最後を見送ることもできませんでした。
のちに幼馴染の友人と夏の間だけいた彼の話になったとき、
「絶対にKくんは〇ちゃんのことが好きだったよね」、としみじみ話してくれました。
私もきっとそうだったと信じたいです。
夏の始まりまでの間の短い期間の淡い初恋は、苦いものに終わりましたが、
今でも名前と顔をしっかり覚えています。
彼と出会ってから
それ以来、好きになる人は、すべて彼に似ている人になりました。
日に焼けていて、笑うと白い歯が眩しいような。
あのような淡い恋心ではもうなくなりましたが、彼との思い出は今でも宝物で忘れられない思い出です。
もし、もう一度会えるのならば、会いたいです。